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芸術家 岩崎貴宏・Recycle & Build
TAKAHIRO IWASAKI
2017年ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館作家
現代美術のオリンピックと称されるヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館作家に選出された岩崎氏。 鉄塔やクレーン、海沿いの工業地帯、海上のオイルリグ、厳島神社などをモチーフに、エネルギーのあり方、海上の国境、揺れる大地など現代日本の状況を様々な視点から作品提示されています。 今回、石川県の珠洲市で開催された奥能登国際芸術祭2017にて、制作・出品されました。 その際に、岩崎氏の作品制作におけるテーマでもある「Recycle&Build」のコンセプトについて、取材させて頂きました。 滅多な事では入れない緊張感のある制作現場の中で快く取材にご対応頂きました。 制作風景が撮影出来た事で、奥能登のその場所から生まれる作品と、海や山、美しい空気、長閑に流れる時間、奥能登の素晴らしい景色と岩崎氏が今回手掛けられた作品の世界観が重なります。 とても貴重な体験を映像として収める事が出来ました。 「Recycle&Build」そのポリシーが世界で活躍されている氏のメッセージとなって心に響きます。
Profile
1975年広島県生まれ、広島県在住。広島市立大学芸術学研究科博士課程修了。 エジンバラ・カレッジ・オブ・アート大学院修了。2015年、ニューヨークのアジアソサエティにて個展、同年、黒部市美術館と小山市立車屋美術館で個展を開催。 第10回リヨン・ビエンナーレ(2009年)、ヨコハマトリエンナーレ(2011年)、第7回アジア・パシフィック・トリエンナーレ(2012年)、2013アジアン・アート・ビエンナーレ(国立台湾美術館)、 第8回深圳彫刻ビエンナーレ(2014年)などの国際展、「六本木クロッシング2007 未来への脈動」(森美術館、東京、2007年)、「日常の喜び」(水戸芸術館現代美術センター、水戸、2008年)、 「trans×form ‒ かたちをこえる」(国際芸術センター青森、青森、2013年)、「日産アートアワード2015」(BankART Studio NYK、横浜、2015年)などのグループ展への参加多数。 第57回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展(2017年)日本館作家。
小ちゃい頃から自分の好きなことだけをやり続けて
生きていければなと、ずっと願ってました。
◎ 芸術家を目指したきっかけは?
私の両親はケーキ屋を営んでるんですね。自営業で営んでいたんですよ、小さい頃。で、周りの友達の親の職業を聞くとサラリーマンと言うんですけど、サラリーマンと言うのが一体何をやっているのかが僕にはわからなくて、自分の父親は、うち帰ったら一生懸命ケーキを作ってるんですね。こう、生クリームを絞ったり。僕はそういう親父の背中を見て、自分の好きなことをやって、生きていくっていうやり方を学んだと思うんですよね。それで小ちゃい頃から自分の好きなことだけをやり続けて生きていければなと、ずっと願ってました。そういうことから、アーティストでなんとか食べて、世界で発表していければなと考えるようになりました。
◎ 普段はどのような活動をされてますか?
僕の仕事ですが、基本的には展覧会会場に行って、滞在して作品を作っていくというかたちですが、例えば今年の5月から始まった世界的に有名なヴェネチアビエンナーレの日本館代表として参加したり、今ここ奥能登で、10日間くらいかけて、インスタレーションを作っていたり、ここに来る1週間くらい前は新潟で別の展覧会の下見をしたり、金沢でアーティストトークをしたり、で奥能登で設置して、この後9月からはシカゴで展覧会やって、また帰ってきて東京で個展するという、そういう風にいろんな都市に呼ばれて、作品を設置、発表して、生活しています。
◎ どのような作品を作っているのですか?
私の作品ですが、主に代表作として、リフレクション・モデルというものと、アウト・オブ・ディスオーダーというシリーズが2つありまして、リフレクション・モデルというのは、木製の模型なんですが、池に映った像、虚像も一緒に作って合体させる建築シリーズと、もう一つはアウト・オブ・ディスオーダーと言いまして、いらない廃品だったり、あとは日用品だったりするものをバラバラに解体して、再構築して、あるひとつの風景に見えるような作品を作ることを今続けています。
ゴミに見えるけど、実は素材。
そのものを解体して、もう一回別のかたちに生まれ
変わらせるということを試行錯誤しはじめました。
◎ 廃品で作品をつくりはじめたのはなぜですか?
廃品を利用して、解体して、また作るっていうスタイルに行き着いたのは、イギリスに留学してから思いついたんですが、その頃一切お金がなかったんですね。制作費のお金が無くて、で、いつのまにか気づくと道に落ちてるゴミを拾うようになって、今まではホームセンターとかで素材を買って作っていたんですけど、道に落ちてるタバコの箱だとか輪ゴムだとか、タバコの吸い殻だとかも、良く考えると、ゴミに見えるけど、実は紙だったり、綿だったり、ゴム製のものだったり、素材だっていうことに気づいたんですね。一見ゴミのように見えるけど、実はちゃんとした素材であるっていうことに気づいて、そこから、そのものを解体して、もう一回別のかたちに生まれ変わらせるということを試行錯誤しはじめました。
◎ リサイクルで世界はどう変わると思いますか?
僕が生まれた時代というのが、ちょうど小学校の頃がバブルの時代で、経済的に豊かで、物は消費してなんぼっていう感じだったんですが、物流が一方通行に流れているというか、作った、消費した、捨てるという話だったんですけど、作家でそのプロセスに関わっていくと、自分の作品、できたものを捨てられるっていうは、すごく悲しいことだと思うんですよね。だから、作った、発表した、売った、また作った、このサイクルを作った方が面白いと思ったんですね。そうした時に、バブル時代の加熱した消費社会みたいなものに対して、嫌悪感というか、、、そういうものではなくて、木を切った、それを紙に変えた、それをもう一度分解してまた和紙の作品にするっていう風なサイクルさせた方が社会と繋がっていけるし、いろんな人の視点が途切れないように感じるんですね。で、社会といろんな人と関わっていけるし、そのサイクルの中で。そういった方が、生き方として、より良い豊かな生き方になると僕は考えています。
アートの力によって、世界がまた別の形に変わって
見えて来るっていうのが、僕には面白いと思ってます。
◎ 岩崎さんにとってリサイクルとはなんですか?
僕にとってリサイクルなんですが、イギリスで作品を考えていた当時のように、街に捨てられているゴミを拾い上げてよく考えていくと、これは素材だなと。ゴミではなくて、まだ使える素材だ、と。でも人の認識によって一回、一つの機能を終えたものとして捨てられるわけですよね。そこに豊かさがない。まだこれは解体して、別の形に変えられる可能性が秘められたものだっていう……、人がこう、価値あるものから価値のないもの、機能が終わった後、これはもうゴミであるって、勝手に決めつけちゃうんですね。それをアートの力によって、あっ、もう一度こういう視点で生まれ変わらせることができるんだとか、こういう視点を与えてもらって、世界がまた別の形に変わって見えて来るっていうのが、僕には面白いと思ってます。
◎ 岩崎さんにとってものづくりとはなんですか?
世界のアートシーンで今メインとなっているものは、コンセプチュアルアートっていう、こう難しくて、考えないとわからないものなんですけど、僕は日本に生まれて、日本で育って、日本人ってやっぱり手が器用だと思うんですよね、そういう特性を生かしつつ、世界に発信して、認めてもらえるようなものを作ることができても良いなって僕は思ってて、手作業を上手く活用したものづくりをしていきたいなと考えています。
◎ 大切にしているものはありますか?
僕の大切にしているものは、常に新しい視点で、物事を見たいっていうことですね。思考が固まってしまうと、やっぱりそこでエンドになってしまう、プロセスが回転させられないってなってしまうと、想像力が次に繋がっていかないんですよね。だから常にこう、いろんな風景を見たり、日用品見たり、これのポテンシャルというか、背後にある何か潜在能力、豊かさなる潜在能力みたいなものを引き出せる可能性はないのかなっていうことを、常にぼんやり考え続けてるっていうのが僕の大切にしていることだと考えています。
jitは芸術家 岩崎貴宏さんの活動を応援しております。
jit所蔵作品
リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)Photo by Keizo Kioku ©Takahiro Iwasaki,Courtesy of URANO